今回は,『ビジネスモデル特許』(ヘンリー幸田著)を検討した。

第一章は,ビジネスモデル特許の概念を扱っている。報告者は市場原理の徹底の帰結について,それが市場原理の止揚を包含していると指摘した。この点について,フロアからは,市場原理の徹底が市場原理の止揚を包含するという場合に,システム内部での止揚とシステム間での移行を齎すような止揚とがあって,両者を混同するべきではないという補足的な問題提起がなされた。

第二章は,アメリカにおけるビジネスモデル特許の現状(2000年初頭当時)を扱っている。ここでは,特にビジネスモデル特許の侵害について,当該ビジネスモデルが地球でただ一つしかないインターネットを利用する限りでは,特許権の属地主義の原則と抵触せざるを得ないという点が,以下のように問題になった。──社会意識において,インターネットを構成する情報機器・通信回線には国境があると想定されて得るとしても,インターネットのネットワークそれ自体には国境がないということは明らかである。そこで,一般に,インターネットを通じた法律問題においては,少なくとも部分的には,国民主権よりも各国間での協調が全面に現れる。しかしまた,世界市場の形成──そしてそこで活動する世界規模での企業の形成──こそがこのような傾向をもっているのである。寧ろ,インターネットは,世界で一つのネットワークであるということによって,このような資本主義社会の一般的傾向を一面的・典型的に表すと考えるべきであろう。

なお,フロアからは,本書が書かれた以後の経過を踏まえて,以下のような指摘がなされた。──結局のところ,アマゾン・ドット・コムに対する反発と,それに対するアマゾン・ドット・コムの対応を見る限りでは,本書の第二章の予測とは異なって,ビジネスモデル特許の攻撃的性格は限定されざるを得ないし,寧ろ防衛的な性格の方が強まらざるを得ない。また,ドットコム企業の崩壊を見る限りでは,知的所有権だけで競争していくことができる企業の数も限定されざるを得ない。そう考えると,ビジネスモデル特許に対する,恐怖と期待は過度のものであったと言えるであろう。

第三章以下については,報告者は,特許権強化→発明促進(技術発展)→経済発展という関連は論証されていないということを強調した。しかしまた,だからと言って,技術発展を経済発展からバラバラに切り離して,経済発展の要因を技術発展に還元してしまう見解をもとってはならないと,報告者は強調した。

その他に,フロアからは,法律家の歴史主義的な立場に対して,以下のような批判が提出された。──ビジネスモデル特許の起源を(情報化の進展と世界市場の展開にではなく)1908年のホテル・セキュリティ社の事件に求める見解,またそもそも特許の起源を(大工業にではなく)15世紀ベネチアに求める見解は,確かに歴史の説明としては正しく,また法律実務においては重要なのであろうが,現在のビジネスモデル特許,またそもそも現在の特許を理解する上では寧ろ妨げになる。現在のビジネスモデル特許,またそもそも現在の特許を理解するためには,このような歴史的起源ではなく,現在のシステムの内部での起源を明らかにするべきであろう。