今回は,『市場競争から見た知的所有権』(富田徹男著)について,プロパテント(パテントを守る産業政策上の潮流),職務発明・法人著作(知的所有の対象が従業員のものか,それとも会社のものか)を検討し,また結局のところ筆者が知的所有権の必要性・有用性に対してどのような態度をとっているのかを検討した。

報告者は,富田による特許権の発生についての記述と,富田自身が特許権の必要性の判断を回避しているということとの検討を通じて,特許権の正当化の危機について以下の2点を主張した。──第一に,そもそも特許権は,本来の正当性論(自己労働に基づく私的所有)では正当化され得ず,所詮は産業政策上のメリット/デメリット論(機能論)で正当化されるしかない。しかも,第二に,それでは果たして本当にメリット/デメリット論で特許制度を包括的・普遍的に擁護し得るかと言うと,これもまた疑問である。

また,報告者は,以下のように,特許権の正当化の危機を私的所有権一般の正当化の危機にまで普遍化させた。──理論的には,そもそも情報財とその他の財とを全く別なものとして区別するということは不可能である。実際にまた,今日では,情報財を他の財から区別する現実的根拠も揺らいできている。従って,知的所有権の正当化の危機は,実は私的所有権一般の正当化の危機の現れである。